甥っ子の結婚式で家族揃ってお祝いに実家に帰った。 久しぶりに会う母も元気で何よりだった。 「お久しぶりです。お元気で何よりです。」耳が遠くなったと聞いていた僕は、大きな声でそれも母の耳元で話した。
「あんた誰?」と僕の存在を否定する母の返事。 僕はその返事に心底驚いた。母の返事は、心配ばかりをかけ続けた僕の記憶を消したかったからなのだろう。 いや、こんなに笑っている母の顔から僕への怒りは全く感じない。 この辛い現実は、認知症になってしまったことによるものに違いない。 僕はそのように自分に言い聞かせて、理解しようと努めた。
華やかな結婚式が始まった。 母はニコニコしていた。 みんな愉しく笑っていた。 良かった、みんな幸せそうで。 母と来席の方々に心から感謝した。
笑顔の母に会ったのは、この日が最後になってしまった。 コロナでの規制が始まり兄もなかなか面会できないと言っていた。 母は病院で医療介護を受けていたが、そのまま亡くなってしまった。
それで最後に母に会ったのは母のお葬式の日で、僕は母に「本当にありがとうございました。」泣きながら手を合わせて感謝の言葉を伝えた。 もう「あんた誰」とも言ってもらえない母に。
母から
わたし 誰だか わかります
ずいぶん ご無沙汰 いたします
心配ばっかり かけたので
あんた 誰かと 聞かれます
人生は つらすぎる
ことが ずいぶん ありすぎて
それでも お母さん
笑ってる
わたし そろそろ 帰ります
今は昔の 親の家(うち)
苦労ばっかり かけました
許してください お母さん
人生は 回り道
遠く離れる 迷い道
それでも お母さん
笑ってる
七転八起き(しちてんやおき)が 信条で
今も変わらぬ 意地っ張り
昔のことなら 覚えてる
あんた バカねと 叱られる
人生は 影ぼうし
紙をなくした 紙芝居
それでも お母さん
笑ってる
作詞作曲 青山哲二 編曲 レレやぐち 歌 宍戸いちろ
「母から」 YouTube 青山哲二 チャンネル